2019年 | プレスリリース?研究成果
【TOHOKU University Researcher in Focus】Vol.003 ミルクが教える免疫の不思議ー母乳の潜在力に迫るー
本学の注目すべき研究者のこれまでの研究活动や最新の情报を绍介します。
農学研究科 野地 智法 准教授

農学研究科 野地 智法(のち とものり)准教授
牛乳あるいは乳製品を毎日口にしている人は多いことでしょう。あたりまえの话ですが、牛乳は牛のミルクです。しかし、牛乳が実际に生产されている酪农の现场についてはあまり知られていないのではないでしょうか。
乳牛がミルクを作るのは、もともとは子牛のためです。子牛を产まなければ、搾乳すらできません。そこで牛乳生产者は、できるだけ効率よく牛乳を生产するための计画を立てます。一般的なのは、1回の出产で10か月间の搾乳を行い、その后2か月间の休养をはさんで再び搾乳を开始するというスケジュールです。乳牛の繁殖は人工授精によって管理されているので、このスケジュールに合わせて人工授精のタイミングを设定します。搾乳中も妊娠は可能で牛の妊娠期间は280日なので、分娩后しばらくしてから人工授精を行うことになります。乳牛の潜在能力としては、この搾乳ローテーションを1头につき5~7回(あるいはそれ以上)繰り返せるはずなのですが、実际には、平均すると2~3回しか繰り返せないというのが実状です(つまり2、3回の出产しかさせられない)。その最大の原因は、乳牛が乳房炎と呼ばれる疾病を発症するためです。乳房炎を発症した乳牛は、経済的な理由から淘汰(処分)せざるをえなくなるのです。
乳牛の乳房炎は、乳房内に病原菌が侵入することで引き起こされる感染症です。発症すると治疗费もかさむ上に、治疗に抗生物质を用いた场合、ミルクの出荷がその后しばらくできなくなり、さらなる経済损失が生じます。乳房炎に伴う経済损失は、日本全体で年间800亿円ともされており、牛乳生产者にとっては深刻な问题です。この乳房炎をめぐる问题は、日本のみならず、世界の酪农现场で多発しています。野地さんは、専门である免疫学からのアプローチにより、乳房炎を予防する研究に取り组んでいます。
见えてきた母乳の潜在力
私たちの体には、体内に侵入した病原体などの异物を见つけて排除するための免疫システムがあります。异物(抗原)の存在を検知すると、それと特异的に戦って无力化する抗体という物质を作るのです。基本的には、いったん获得された免疫の记忆は保存されるため、同一の异物が侵入した际には、それを排除する态势が速やかに発动されます。
じつは、分娩后の母体の乳房には、このような抗体を作り出す环境ができあがっているのです。そしてその抗体は、母体の乳房を病原体感染から守るだけでなく、母乳を介して子にも受け渡されます。これにより、免疫がまだ十分に発达していない出生直后の子も病原体への感染から守られることになります。それにしても不思议です。出产后の母亲は、ミルクの中に含まれる抗体を、どのようにして作っているのでしょうか。
免疫に関わる细胞は骨の中(骨髄)で诞生します。抗体を作るB细胞と呼ばれる细胞も同じです。それが血管やリンパ管を流れて各所に运ばれ、异物の出现を监视し、见つけしだい、抗体を作ることのできる状态へと活性化するのです。
野地さんの研究グループは、子が母亲の乳房を吸う刺激が引き金となり、母体の乳房にB细胞が集まってくることを発见しました。つまり子は、ミルクを饮むという行為を通して、母体内のB细胞を乳房に集结させるための信号を母亲に送っているということになります。
しかも、动员される免疫细胞の大半は、远く离れた肠から招集されていることもわかってきました。肠は、体の各器官のなかで特にたくさんの免疫细胞がいる场所なのです。外界から肠に入ってくる膨大な量と种类の异物の监视にあたるべく、肠には特别な免疫机能が発达していることも知られています。その特别な机能が、授乳期の母亲の乳房における免疫机能にも深く関わっているのです。
食と免疫
ミルクを作る乳腺は、妊娠?出产?授乳という生殖サイクルを経て初めて机能します。それには、単にミルクの产生だけでなく、効率的な免疫机能の构筑も伴っていることがわかってきました。野地さんたちは、この仕组みを突き止めるべく、モデル动物であるマウスを用いてたくさんの研究を実施してきました。しかしマウスだけでなく、乳腺の机能は哺乳类に特有のものであり、多くのことが、ウシやヒトでも共通していると考えています。ヒトの乳腺に関する研究というと、乳ガンに関する研究はたくさん行われてきたものの、授乳に伴う免疫机能に関する研究は、これまでほとんどなされていませんでした。农学领域で生まれた研究のアイディアが、畜产领域のみならず、医学领域にも新たな视点を提供しつつあるのです。
免疫は、かつては全身机能の一つとして理解されていましたが、肠や乳腺などの粘膜组织に特有の免疫机能が発达していることがわかってきたことで、粘膜免疫学という学问が生まれました。また、近年では、粘膜组织に発达する微生物丛(フローラ)と各种病気との関连性に関する研究も大きな脚光を浴びています。
野地さんの研究は、乳腺に発达する粘膜免疫とそれに関わる微生物との関係性を明らかにする方向に発展しています。免疫学と微生物学の知见を活かし、机能性を有した乳生产を可能にする方法が确立できれば、そのミルクを饮む子だけでなく、母体の健全性を向上させることにも贡献できるはずです。そのほかにも野地さんは、医学领域の产妇人科や小児科の医师とも连携することで、哺乳类特有の生命现象である「哺育の科学」を研究课题として设定し、研究をさらに発展させていきたいと考えています。
野地さんが家畜の研究に兴味を持ったきっかけは、农学部1年生の顷に、大学の农场で乳房炎を発症した乳牛をたまたま见たことだったそうです。それ以来、乳房炎を予防するための免疫研究に魅了され、日本とアメリカの医学领域の研究室で免疫学の基础を学ぶための武者修行を経て、母校に戻ってきました。着任の际、それまでは研究一辺倒で教育経験のなかった野地さんは、东北大学新任教员プログラムに参加し、大学教员としての心得をイロハから学びました。また、东北大学のアカデミックリーダー育成プログラムにも参加し、大学人としての组织运営についても学んできました。今はその恩返しとして、自らが新任教员のメンター役を务めています。
大学は、専门分野も年齢も多様な人材が集まる场所です。野地さんは、そうした多様性を研究にも生かしつつ、食と健康の科学を追求しています。

2017年には、东北大学知のフォーラム「农免疫で切开くフードサイエンスの新しい地平」をオーガナイザーの一人として企画実施した。
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问い合わせ先
东北大学総务企画部広报室
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*驳谤辫.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫(*を蔼に置き换えてください)