2020年 | プレスリリース?研究成果
【TOHOKU University Researcher in Focus】Vol.007 ロボット研究で宇宙へ―少年時代の夢を実現―
本学の注目すべき研究者のこれまでの研究活动や最新の情报を绍介します。
工学研究科 吉田 和哉 教授

工学研究科 吉田 和哉(よしだ かずや)教授
虫を採り、鉱物を集め、恐竜の化石発掘を梦见ていた和哉少年は、天体望远镜で星も见ていました。恐竜学者か天文学者になる梦を秘かに育みながら。しかし中学、高校へと进み勉学に追われるうちに、いつしか初心を见失っていました。梦がよみがえったのは、天文研究者の出前授业がきっかけでした。その讲演を聴いた晩、押し入れの奥にあった天体望远镜を引っ张り出し、久しぶりに夜空を见上げたのです。
チーム贬础碍鲍罢翱の结成
アメリカのX PRIZE財団は、2007年にGoogle Lunar XPRIZEを開始しました。これは、不可能とも思える技術に挑戦することで新たなブレークスルーを誘発するために同財団が実施するコンテストの一環です。その内容は、2015年12月31日(最終的には2018年3月31日に延長)までに「無人探査機を月面に軟着陸させ、着陸地点から月面上を500m以上走行し、高解像度の画像データを地球に送信する」ことに成功したチームに最高賞金2000万ドルを授与するというものでした。
当初、世界中から34チームが名乗りを上げました。その中の1つWhite Label Spaceは、ヨーロッパと日本の混成チームでした。ヨーロッパのチームが月面着陸機を開発し、吉田さんを中心とした日本チームが月面探査車(ローバー)を開発するという分担でスタートしたのです。しかしヨーロッパチームは2013年に開発を断念。日本側はチーム名をHAKUTO(白兎)に変更し、探査車のみの開発に的を絞り、月面探査用ローバーSORATO(宙兎)の開発を進めました。
ローバーはゼロからの开発ではありませんでした。それ以前からローバーの研究开発は进めており、技术では自分たちが先头を走っていた、着陆さえできれば500m走行の自信はあったと、吉田さんは语ります。それもあって、2015年1月には、中间目标を达成したチームに与えられるマイルストーン赏を受赏し、赏金50万ドルを获得しました。
宇宙にロボットを送るうえでの难题は、宇宙の厳しい环境でも确実に动作させること、そしてひとたび地球を离れると何が起きても修理ができないことです。しかし吉田さんの研究チームは、2009年以降の10年间で10机もの超小型卫星を开発?打上げし、宇宙机を轨道上で正确に稼働させるためのノウハウと実绩を蓄积してきています。地球から3亿办尘离れた小惑星イトカワの试料を採取して帰还した「はやぶさ」の开発にも関わってきました。
生活圏を宇宙に広げる
月面の多くは、レゴリスと呼ばれるとても细かいパウダー状の砂で覆われています。その砂粒は、宇宙から高速で降り注ぐ陨石や微粒子の衝突によって形成されたとされています。地球の砂は川や海、あるいは风の浸食によって摩耗されていますが、月には大気も川や海もないため、レゴリスは摩耗されておらず、尖っています。そのため、月の表面は新雪のようにふかふかなのですが、踏むとギュッと缔まります。1969年に月面着陆したアポロ11号の宇宙飞行士が月面にくっきりと残した靴跡は印象的でした。
ローバーは、打ち上げにかかる费用などを考虑し、超小型?軽量です。苦心を重ねた末、本体のサイズは、縦幅58肠尘、横幅54肠尘、高さ36肠尘で、炭素繊维强化プラスチックを使用することで重量4办驳を実现させました。そこに必要最小限の机能を搭载させています。小さくても、大きなローバーに负けない走行性能を得る工夫も凝らされています。月の重力は地球の6分の1です。车轮を回転させてもレゴリスをかき上げるだけに终わって牵引力をロスしないために、砂をしっかりと把握するための板状の突起(グラウザー)を备えた特殊な车轮を採用し、砂丘などでの走行実験によって改良を重ねました。
月面上では极端な温度差への対応も难题です。昼と夜では250℃もの温度差があるのです。もちろん、大気のない月では空冷装置は使えません。そこでローバーの外面は、太阳光を反射しやすい银色のテフロン加工を施しました。このように、月面ローバー厂翱搁础罢翱は、これまでの経験に里付けて仕上げた逸品なのです。
しかし、月着陆船への相乗りを予定していたインドチームが2018年1月に挑戦を断念したことから、チーム贬础碍鲍罢翱の月面探査レースも终わりを告げました。レース全体も、ファイナリストとして残った5チームのいずれもが期限内の月面到达に成功せずに终わりました。
ただし吉田さんたちの挑戦がこれで终わりを告げたわけではありません。このレースはきっかけにすぎないからです。チーム贬础碍鲍罢翱を运営する目的で设立した宇宙ベンチャー公司颈蝉辫补肠别は、自前での月着陆船の开発を进めており、2021年を目标として1号机の月面着陆を目指しています。アメリカのスペース齿社のロケットで打ち上げられた后、月までの38万办尘を航行して月周回轨道に入り、月面に软着陆してローバーを走らせる予定です。
その先の计画も视野に入っています。无人ローバーを活用し、月の北极と南极にあるとされる水资源の探査を行おうというのです。利用可能なほどの埋蔵量があれば、月面有人基地の建设?运営に现実味が出ます。そうなれば、さらにいろいろなタイプのロボットが必要になることでしょう。
宇宙は、いうなれば极限状态の环境です。その技术は、人が立ち入れない场所で活跃するロボットの开発にも応用できます。事故を起こした福岛第一原子力発电所原子炉建屋の初动调査では、东北大学も参加して开発した灾害対応ロボット蚕耻颈苍肠别(クウィンス)が活跃しましたが、吉田さんは、蚕耻颈苍肠别の放射线対策面で协力しました。ロボットに使用されている半导体デバイスには放射线に弱いという特性があります。実は事故直后の建屋内の放射线量は、宇宙空间の放射线量とほぼ同じレベルだったため、吉田さんらが养ってきた技术が役に立ちました。
X PRIZE財団の月面探査レースは勝者なしで終わりましたが、吉田さんたちが開発した月面ローバーSORATOは、2019年10月に、アメリカのスミソニアン航空宇宙博物館に寄贈されました。民間主導の月探査計画による技術開発の成果として評価された結果です。同博物館は、「宇宙飛行の未来」と題した新しい展示施設を2024年にオープンする予定で、SORATOはそこに展示されることになっています。
现在、国际协调のもとで月周回轨道上に有人の月轨道プラットフォーム?ゲートウェイの建设が计画されています。そこをベースとして月面との间を宇宙飞行士が往復したり、火星探査への中継点とすることも検讨されています。日本も闯础齿础を中心に同计画に参加しているほか、闯础齿础独自の月ミッションも计画されています。2020年代は、闯础齿础をはじめとする各国の宇宙机関の着陆船や、颈蝉辫补肠别のようなベンチャー公司の着陆船、さらには国际协力による月面探査や月面开発が活発になることが期待されています。
高校时代に星空への梦を復活させた吉田さんでしたが、そこから宇宙まっしぐらというわけではありませんでした。工学部に入学し、天文同好会に所属することで细々と梦をつないでいたのです。転机が访れたのは、大学院での研究テーマ选びの际でした。ロボット工学系の研究室に进学したのですが、指导教授から、宇宙が好きなら宇宙开発用のロボットをテーマにしてはどうかと助言されたのです。宇宙が目の前に広がった思いでした。そこからスタートした吉田さんの挑戦が、人类の生活圏を宇宙に広げるという形で実现するのも、そんなに远い未来ではないはずです。
文責:広報室 特任教授 渡辺政隆

月面探査ローバー厂翱搁础罢翱の开発モデル
月の表面の状况を模拟するため、国内の砂丘で走行実験を繰り返したほか、様々な角度からの日照条件を模拟するため、夜间に人工光源を用いた実験を行った。
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东北大学総务企画部広报室
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*驳谤辫.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫(*を蔼に置き换えてください)