2022年 | プレスリリース?研究成果
シナプスを食べて忆える グリア细胞による神経细胞の微细构造の贪食が记忆を支える
【本学研究者情报】
〇生命科学研究科 教授 松井広
【発表のポイント】
- 脳内での情报の受け渡しは、神経细胞同士をつなぐシナプス*1で行われています。学习や记忆にともない、シナプスのサイズが変化し、神経を伝わる信号の强度が制御されます。しかし、シナプス构造の调节メカニズムの全容は不明です。
- シナプスを含む神経细胞の一部を、小脳バーグマングリア细胞*2が断片的に食べる(贪食*3する)ことで、不要な神経接続を弱め、记忆の定着を促进することを示しました。
- 记忆におけるグリア细胞贪食を理解することで、记忆力促进や认知症治疗などに役立つ可能性が期待されます。
【概要】
记忆の形成は、脳神経细胞间のシナプス伝达が强くなる、もしくは、新たなシナプス接続が形成されることで作られると考えがちですが、むしろ、不要なシナプスでの信号伝达が弱くなる、もしくは、シナプス接続そのものが除去されることで、効果的な适応学习が成立することもあります。今回、グリア细胞による贪食作用が脳内の微细构造の変化を支持し、记忆の定着の本质に関わることを示しました。
东北大学大学院生命科学研究科の森泽阳介研究员(研究时、日本学术振兴会特别研究员笔顿)、松井広教授(大学院医学系研究科兼任)らのグループは、小脳バーグマングリア细胞が神経细胞の一部を贪食していることを、新规开発?遗伝子改変マウスを用いた蛍光タンパク质の追跡法*4、叁次元电子顕微镜解析法*5で示しました。さらに、小脳依存性运动学习*6にともない、バーグマングリア细胞によるプルキンエ细胞のシナプス构造の贪食が亢进しました。この贪食作用を薬理学的に阻害すると、シナプス构造の変化が抑制され、学习の効果が低下することが明らかになりました。本研究により、グリア细胞の活跃次第で、记忆の定着のしやすさが左右される可能性が示されました。
本研究成果は、2022年11月1日付でNature Neuroscience誌にAccepted Articlesとして掲載されました。

図2 グリア细胞贪食の电子顕微镜解析
(A) 小脳組織の電子顕微鏡画像を解析したところ、シナプス前部構造(ブートン、水色着色)とシナプス後部構造(スパイン、黄色着色)と接するシナプス部位において、周囲を取り囲むバーグマングリア細胞(マゼンタ着色)が、プルキンエ細胞のスパイン部位をまさに貪食せむとする決定的な場面を捉えることに成功しました。この例では、貪食部位は、まだ、神経細胞のスパインとつながった状態でしたが、貪食されつつある部位では、既に、組織変性が始まっていることが示唆されました。また、別の例では、貪食が完成し、元の神経部位と完全につながりが切れた直後と思われる画像も得られました。この他にも、シナプス前部構造の一部や、神経細胞の他の部位を貪食している様子も多数記録することができました。これまで、脳損傷や脳梗塞時、あるいは、発生発達のごく初期にグリア細胞による貪食が生じることは報告されてきました。しかし、今回のように、脳に何らダメージがない、ごく健康な脳内において、グリア細胞によるスパインの貪食の決定的な瞬間を詳細に電子顕微鏡で捉えたのは、世界で初めてです。
(B) 化学固定された脳組織ブロックをイオン束(Focused Ion Beam)によって薄く削って、残った組織ブロックの表面を走査型電子顕微鏡(Serial Electron Microscope)で観察し、再び、FIBで削って観察することを繰り返すことで、脳組織の精細な三次元像を再構築することが可能です。今回、最新鋭のFIB-SEM技術を使って貪食部位を観察したところ、通常のスパイン形状から明らかに飛び出してグリアに貪食されつつある構造が浮かび上がってきました。
【用语解説】
*1 シナプス:
兴奋性神経细胞の出力末端のシナプス前部には、グルタミン酸の詰まったシナプス小胞が集积していて、神経细胞が兴奋すると、このシナプス小胞の中身が细胞外空间に放出されます(开口放出)。细胞外に放出されたグルタミン酸は、シナプス后部まで拡散し、グルタミン酸に特异的に反応する受容体に结合し、细胞内に阳イオンが流入することで、この神経细胞は兴奋します。シナプス伝达の効率が増强されたり减弱されたりすることで短期的な记忆は成立し、シナプスが构造的に変化することで长期的な记忆が定着すると考えられています。小脳においては、シナプス伝达効率が减弱し、シナプス构造が小さくなったり切断されたりすることで、运动学习记忆が形作られると考えられています。
*2 グリア细胞:
脳内の细胞は、神経细胞とグリア细胞に分类されます。神経细胞は活动电位で情报を表现し、神経细胞同士をシナプス结合でつなぐネットワークで脳内情报処理が进むと考えられています。グリア细胞は、神経细胞の隙间を埋めて、神経细胞への栄养供给をする存在だと考えられてきましたが、近年、グリア细胞も特有の情报表现をしていて、神経细胞の担う情报処理に影响を与えることが认识されるようになってきました。
グリア细胞は、大きく分けて、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトに分类されます。脳内において情报処理にかかわるのは神経细胞ですが、アストロサイトによる情报処理の修饰やシナプス可塑性のメタ制御等に近年注目が集まっています。今回、神経组织の微细构造が変化し、学习や记忆が神経回路に刻まれて定着する过程において、アストロサイトの贪食作用が関与することが示唆されました。なお、今回、特に注目したのは小脳バーグマングリア细胞についてです。この细胞は、アストロサイトの一种に分类されますが、他のどのグリア细胞とも异なる特徴が多くあるため、独立した细胞种としてみなす场合もあります。バーグマングリア细胞は、特に、小脳依存性の运动学习との関わりが强く示されてきました。
*3 贪食(どんしょく):
细胞が他の细胞の一部や外来の异物を取り囲んで「食べて」しまうように见える现象のことを辫丑补驳辞肠测迟辞蝉颈蝉(贪食)と呼びます。実际に、食べられた细胞の断片は、リソソームという细胞内小器官に取り込まれ、その内容が分解(消化)されます。脳内では、グリア细胞のうちの免疫担当のミクログリアによる脳组织の贪食作用は良く知られていました。また、シナプス部位や血管等の周囲を占め、脳内でのエネルギーの受け渡し等の代谢机能に主な役割をもつアストロサイトも、近年、神経组织を贪食することが示されています。ただ、このようなアストロサイトによる贪食は、発生発达のごく初期の过程か、脳梗塞等によって脳组织の一部が壊れた时にしか生じないと考えられてきました。今回、健常时の脳でも、学习等の刺激によって、アストロサイトによる贪食が亢进することが示されました。
*4 遗伝子改変蛍光タンパク质の追跡法:
今回、神経细胞特异的に蛍光タンパク质を遗伝子発现させて、この蛍光タンパク质の场所を追跡し、グリア细胞に取り込まれたかどうかを调べる方法を用いました。これまで、同様のストラテジーで、神経细胞に緑色蛍光タンパク质(骋贵笔)を発现させて、追跡を试みた例はありますが、贪食された细胞片はグリア细胞内のリソソームに运ばれてしまいます。骋贵笔は早い段阶でリソソームによって分解されてしまいます。したがって、贪食された神経组织を骋贵笔で标识して追跡することはできませんでした。一方、今回、リソソームによる分解作用を受けにくい赤色蛍光タンパク质(辫贬搁别诲)を神経细胞に発现させたところ、グリア细胞内に取り込まれてもなお、辫贬搁别诲で标识された神経组织を长期的に追跡することが可能になりました。
*5 叁次元电子顕微镜解析法:
グリア細胞には極めて薄いシート状の微細構造があり、光学顕微鏡の解像度を下回るため、グリア細胞が神経組織片を完全に包囲しているのか、それとも、神経細胞とグリア細胞とが、ただ隣接しているだけなのかを区別することは困難でした。また、電子顕微鏡を用いて、超薄切片1枚の画像を調べて、たとえ、神経組織片がグリア細胞に包囲されているように見えたとしても、どこかで神経組織片が神経細胞の本体とつながっている可能性は否定できませんでした。今回、ブロック状に固めた脳組織の表面をFocused Ion Beam(FIB)で薄く削って、ブロック組織の表面を走査型電子顕微鏡(Serial Electron Microscope; SEM)で観察する方法を繰り返すことで、脳組織の三次元像を高解像度で再構築する方法を用いました。この方法によって、神経組織片がグリア細胞によって完全包囲されつつある過程も観察することができ、貪食が完成する前から、神経細胞の微細構造において変性が始まっていることも示唆されました。
*6 小脳依存性运动学习:
各種筋肉の働きを調節して、効率的な運動機能が成り立つような適応学習は、小脳において成立すると考えられています。特に、目の前の画像が左右に触れるのを追跡する不随意の眼球運動の学習(Horizontal Optokinetic Response; HOKR)が良く調べられています。繰り返し、画像を提示することで、次第に眼球運動の振幅が大きくなり、網膜上の画像が安定化すると考えらえられています。この運動学習は、小脳の中でもflocculusという小領域が担当しています。今回、HOKR学習によって、flocculusでのバーグマングリア細胞による神経組織の貪食が亢進し、グリア貪食を薬理学的に阻害すると学習の一部が阻害されることが示されました。
问い合わせ先
(研究に関すること)
东北大学大学院生命科学研究科
教授 松井 広(まつい こう)
电话 022-217-6209
贰-尘补颈濒 尘补迟蝉耻颈*尘别诲.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫
(*を蔼に置き换えてください)
(报道に関すること)
东北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
电话 022-217-6193
贰-尘补颈濒 濒颈蹿蝉肠颈-辫谤*驳谤辫.迟辞丑辞办耻.补肠.箩辫
(*を蔼に置き换えてください)