2024年 | プレスリリース?研究成果
スピン波を用いた物理リザバー計算機の高性能化の条件を理論的に解明 -省エネルギーなAIハードウェア開発に新しい視点-
【本学研究者情报】
〇 材料科学高等研究所 准教授 義永那津人
【発表のポイント】
- スピン波を用いた物理リザバー计算机において、高い学习性能を実现するための波の速度と素子サイズとの関係を数理的に解明しました。
- 少ない入出力ノード数でも従来の最高性能に匹敌する性能を引き出せることを物理シミュレーションと理论计算によって実証しました。
- 磁気素子を用いた础滨ハードウェアの开発に新しい视点を与える成果です。
【概要】
近年社会における础滨技术を用いた情报処理の需要は急速に増加しています。现在は、ニューラルネットワーク?注1)による情报処理の计算を、电子计算机上で膨大な数の颁笔鲍(中央演算処理装置)や骋笔鲍(画像処理装置)を用いることによって行っているため、高い消费电力が问题となっています。一方、人间は低消费电力で情报処理を行っていることから、リザバー计算?注2)や量子计算技术など、従来とは异なる概念に基づいた科学技术による情报処理の研究が世界各国で进んでいます。
东北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)兼产业技术総合研究所 产総研?东北大 数理先端材料モデリングオープンイノベーションラボラトリ 副ラボ长の义永那津人准教授は、同大学学际科学フロンティア研究所の饭浜贤志助教、WPI-AIMR兼同大学先端スピントロニクス研究开発センターの水上成美教授、同大学大学院工学研究科の小池雄也大学院生(研究当时)とともに、强磁性体?注3)薄膜中のスピン波?注4)を用いて従来のリザバー计算机よりも低消费电力で高い学习性能が期待される物理リザバー计算?注5)を実行できる装置を実现するための机构を解明しました。
スピン波を情报の担体とするAIハードウェアの研究が世界的に进展しており、ナノメートル、ギガヘルツかつ高エネルギー効率で高い学习性能を実现することは重要な课题の一つです。本研究グループでは、金属ナノ薄膜の强磁性体中を伝わるスピン波を研究しました。时系列データに比例した大きさで磁性体の入力ノードの位置を励起することでスピン波を発生させ、伝播したスピン波を出力ノードの位置で読み出すことで、短期记忆と非线形変换能力を持った学习やカオス时系列?注6)の予测が可能であることを示しました。また、数理的な解析によって学习性能を最适にするスピン波の速度と素子のサイズとの関係を明らかにしました。本结果は、磁気ナノテクノロジーを用いた低消费电力な情报処理素子の开発に新しい视点を与えるものです。
本研究は3月1日(英国時間)に、スピントロニクス分野の専門誌npj Spintronicsの電子版に掲載されました。

1. 磁性体薄膜のスピンの波を利用したAIハードウェア応用、物理リザバー計算の模式図。時系列の情報処理を行うことができるデバイスで、入力時系列を出力時系列に変換することによって、入力時系列の将来のデータを予測したり、過去のデータを記憶して読み出したりすることができる。入力時系列は、物理リザバー内の物理ノード(上図の黄色点、下図の青の円筒)のダイナミックスを励起し、その時間変化を読み出すことで出力時系列を得る。スピン波によりリザバー計算では、入力時系列に比例した電流を物理ノードに流すことによってスピン波を励起させる。このスピン波の伝播を利用して学習を行う。スピン波を使うことでナノスケールの高性能リザバー計算機を実現できる
【用语解説】
注1. ニューラルネットワーク
机械学习モデルの一种で、入力となるデータを出力データに変换することでタスクを行うことができる。时系列データの场合は、例えば、気象予测のように、过去の気象の情报(入力データ)から未来の天候(出力データ)を予测することがタスクになる。まず、正解となる入出力データのペアを用いてニューラルネットワークの学习を行い、その后学习済みのニューラルネットワークを用いて予测などのタスクを行う。
注2. リザバー計算(reservoir computing)
时系列の情报処理に适した机械学习手法の一つ。リカレントニューラルネットワークの一种だと考えることができる。入力时系列を出力时系列に変换することによって、现在时刻までの时系列データから次の时间のデータを予测したり、过去のデータを记忆して取り出したりするタスクを行うことができる。时系列の入力部分、入力データを高次元空间へ変换するリザバー部分、出力时系列を読み出す部分から构成される。リザバー部分は、入力の时间変化に伴い时间変化する。リカレントニューラルネットワークでは、リザバー部分のノード间接続の重みを学习の际に更新するのに対して、リザバー计算ではリザバー部分の重みは更新せず、読み出し部分の重みだけを更新する。そのため、学习パラメータ数が少なく、学习手法も简便であるため、高速かつ安定な学习が可能である。
注3. 強磁性体
物质内部の隣り合うスピンが同一の方向を向いており大きな磁化を持つ磁性体。
注4. スピン波
磁性体は、ミクロな棒磁石(スピン)が整然と整列しているように振る舞う。各々のスピンはコンパスが揺れるかのように、その方向を时间的に変化させ、これが磁気の振动となる。川や海の水面の波のように、磁気の振动も磁気の波を発生する。磁気の振动や波の伝播に伴うエネルギーの消费は、电気を通电する素子に比较して非常に小さく、また、ナノスケール、ナノ秒の时间スケールで动作するため、省エネルギーの情报処理装置としての利用が期待されている。
注5. 物理リザバー計算
リザバー计算では、リザバー部分の重みを更新しないので、この部分を物理システムに置き换えることが可能である。本研究では、この部分に强磁性体薄膜のスピン波の伝播を用いている。この场合、计算机のサイズや速度は、物理システムのサイズや速度によって决まる。従って、磁気ナノテクノロジーを用いるとナノスケール、ギガヘルツ、低消费电力で动作する计算素子の実现が期待できる。
注6. カオス時系列
决定论的规则に従って时间変化するにもかかわらず、不规则に见える振舞いを示す现象のこと。天体や気象、流体や生态の个体数の変化など自然界でさまざまな形で観察することができる。本研究で用いたローレンツ方程式は、気象学者のエドワード?ローレンツが1963年に提案した、気象の现象论モデルで叁変数の常微分方程式で记述される。初期値のわずかな违いが时间的に指数関数的に増大することから(初期値鋭敏性)、カオス时系列は、短时间の予测でも难しく、また、长时间予测することは不可能である。しかし、状态変数の轨跡は、蝶々の羽のような特徴的な构造(アトラクター)を持つ。リザバー计算では、この构造を再现することに成功している。
问い合わせ先
(研究に関すること)
东北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
准教授 義永 那津人(ヨシナガ ナツヒコ)
Tel: 022-217-6372
Email: yoshinaga*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(报道に関すること)
东北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広报戦略室
Tel: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
东北大学は持続可能な开発目标(厂顿骋蝉)を支援しています